さらに上を見上げたり場所がおぼえていたり

 

見上げれば天をも目指すそのビルの、元の場所にはずいぶんと年季の入った煙草屋があった。

一度だけそこで煙草を買ったことがある。

高いビルに囲まれ、高速道が頭上を走る煙草屋には、建物同様年季の入ったおじいさんが居て、注文した銘柄を超スローで奥の煙草ケースから取り出してくれた。

きっとその場所で、昭和の頃から営業し、周辺の発展を目の当たりにしてきたのだろう。

 

今やその跡方も無く、どうやらビルの一階にはスターバックスが出来るみたいで、先日通りかかった際には、従業員らしき人たちが店内に荷物を運びいれながら、楽しそうに会話をしているのが見えた。

煙草を買ったのはその一度だけで、これからも何度もその場所の前を通り過ぎるだろうが、あの超スローな動きが忘れられないままに、きっとそのうち忘れてはしまうだろうけれど、その場所で煙草を買ったのかと、何度も見上げるビルの上のさらに上を見上げるだろうか。

場所が覚えている記憶が急によみがえる。

 

職場のデスク脇にある棚に本が置いてあって、それは前に新宿で買った本なのだが、その後それはもうすこぶるな雨に降られてずぶぬれになって帰った。カバンもだいぶ濡れ、本の上辺がすっかり濡れてしまいよれよれになったのだが、その本を今日久々に見つけ、急に雨の夜がよみがえってきた。

それは場所ではなく本が覚えている記憶ってことだな。その後別の本に移行してしまって手をつけていなかったから改めて読むことにしよう。

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